うつ病の心理

私も妻がうつ病真っ只中だった時は、なんでそうなるのか分からないことばかり
でしたが、長い年月を掛けて付き合っているうちに分かってきました。

うつ病の心理を考える上で、真実という言葉は重要なので、ここで、真実の意味を明確にしておきます。真実は、その人の中では正しいことです。学習、経験などによる思い込みで、真実は出来上がります。真実は事実とは異なることもあります。

人間は、いつでもそうですが、新しいことを学習して成長して行きます。その際に一旦真実だとしたことは、無意識に行動や思考に利用することができます。

例えば、ドアノブを回すとドアが開くというのは、意識してやっている人はいないと思いますが、これは、そういう学習をして、ドアを回すとドアは開くというということを真実とした結果、無意識にも出来るようになったわけです。無意識に出来るようになるということは、それだけ考える必要がなくなるということなので、行動の幅を広げるのに寄与しています。確かに、物を見るたびに、その材質が何でできていて、どのように使用するのか、いちいち考えていると大変ですもんね。一度真実になったことは意識しなくてもできるようになることは、人間がより良く生きるために、人間に身に付いた能力なのだと思います。

思考についても同じことが言えます。
例えば、思考をする時は、人に迷惑を掛けてはいけないとか、人を傷付けてはいけないとか、そういう思い込みが真実としてあるので、別にそれを意識していなくとも、無意識に、その真実をベースにした思考になって行きます。

死にたい感情などの無意識にこころの底から湧き出てくるものは、真実と真実の積み重ねから出てきたものです。真実になってしまうと、意識することは難しくなるので、何でそういう思いが出てくるのかは、自分でも説明がつかないものです。

こころの底から湧き出てくるものの感覚が分からない方は、人の名前を想像すると分かり易いと思います。私たちは、人の名前を聞くと、大体は、「男」か「女」かの性別を判断することができます。
最近の子どもは、今までにないような名前が増えていますが、それでも、私たちは判別可能です。
でも、なぜそう思うのかは、なかなか説明ができないと思います。

こころの底から湧き出てくるものは、すぐに、行動に移せるようなものであれば、気にすることもないのです。しかし、すぐに行動に移せないものは、もんもんとこころの中に残り続けます。

人間は、やりたいことがやれないというのは、ストレスになります。
苦しい中にいる、うつ病の方はストレスでいっぱいです。こころの中に死にたいという気持ちがあるのだから、それを成し遂げると、楽になれるのではないかという思いが強くなるんです。

心理学の実験で明らかになっているのですが、人間は不安な時ほど、理由を探し出す傾向があるそうです。
これは、なんでもない模様を見せて何に見えるかという実験です。
2つのグループに分けて、1つのグループには不安をあおるようなことを事前に行います。
そうすると、不安をあおられたグループの方が、何でもない模様が、意味のある模様に見えると答える率が上がるそうです。

無意識に湧き出たものに、理由を探すのは、理由がないと、脳は不安を感じてしまうからです。人間の脳は、辻褄の合わないこと、説明ができないことが大の苦手で、分からないままでは混乱して、不安になるようにできています。

脳には、もうひとつ重要な特徴があります。不安からいち早く逃れるために、いま持ち合わせている情報や知識だけで、素早く解決しようとします。
いったん解決したことは、その理由を真実だと思い込むのです。

真実と思い込むことで、不安を減らす仕組みが脳にはあるのです。

うつ病の方と話をしていて、考え方が凝り固まって、頑固だと感じることはありませんか?

真実は、不安を減らすために作られるので、自分の都合の良い方向に偏って行きます。

家族から、どんなに説得や説明をされても、考え方を変えることはできません。
真実が真実ではなくなると、自分を守れなくなるからです。

うつ病は苦しい病気です。自分を必死で守ろうとするは当然でしょう。

うつ病は、自分を守ろうとして、考え方が凝り固まってしまい、それが更に自分を苦しくしている病気だと思っています。